歯ぎしりとくいしばりは同じ疾患

 若いお母さん方から、お子さんの歯ぎしりについて相談を受けることがあります。上田市で開業されている高橋先生の調査では、小学生の30%近くに歯ぎしりがみられたと報告されています。
 そこでまず、歯ぎしりという行為をもう少し詳しく説明します。 
 「歯ぎしり」は「くいしばり」と表裏一体で、「ブラキシズム」という病名で呼ばれています。その理由は、歯ぎしりを治そうとすると、くいしばりの症状が出るようになり、反対にくいしばりの治療をすると歯ぎしりするようになる、ということなのです。したがって両者は同じ疾患とみなされています。

ブラキシズムの原因

 ブラキシズムの原因には、中枢性(脳内に原因)と末梢性(歯に原因)があるといわれていますが、全くわかっていません。
 しかし、私は、ブラキシズムは、悪い咬み合わせに対する自己修復行為である、と考えています。咬合の大家であるドーソン先生も同じことを言っています。ブラキシズムの患者さんの咬み合わせの治療をすると、ブラキシズムの症状が消失するというのです。
 なぜ、歯ぎしりするかというと、咬み合わせが悪いと食事がしっかりできません。そこで歯ぎしりによって歯をすり減らしたり、くいしばりによって飛び出している歯を沈下させたりして、咬み合わせを修正しようとする。これが自然の行為として出現するのが、ブラキシズムであると考えることができるのです。

歯ぎしりの原因

 そこで子供の歯ぎしりの原因について考えてみます。
 小中学生の時代は、乳歯から永久歯に交換する大事な時期にあたります。前歯は別にして、奥歯の交換をみると6歳頃に、第一大臼歯が出てきます。次いで8歳頃に第一小臼歯、そして9歳頃から第2小臼歯と犬歯が萌出し、以前に生えていた乳歯と交代します。そして最後に13歳頃から第二大臼歯が出てきます。このように子供の歯は、6歳頃から17歳頃までにドラマチックに変化して、乳歯に代わって永久歯の歯になります。 
 第一大臼歯の咬みわ合せの完成をみてみると、上下別々の顎から第一大臼歯が出て咬み合うのですが、この咬み合わせがすんなりと理想的にはいかないのです。なぜなら、歯はそれぞれ上下の独立した顎から出てくるため、正しい咬み合わせを保証するものがないのです。そこで正しい咬み合わせに導くガイドが必要です。そのガイドの働きをするのが、歯の噛む面の凹凸からなる山と谷の30度斜面なのです。
 上下顎歯が最初の触れる位置が悪くても、歯が伸びるにつれて30度の斜面に導かれて、正しい咬み合わせに落ち着くようになるのです。
 そこで思い出してください。「歯ぎしり」は、咬み合わせの悪い状態を修復するための行為であると言いました。子供の歯は、年齢によってさまざまな歯が出てきます。これらの歯が最初に触れる位置は、まさしく咬み合わせの悪い状態なのです。したがって、これを修復しようとする行為、すなわち歯ぎしりをするのです。しかし、歯が萌出するにつれて正しい咬み合わせの位置に移動し、落ち着くと歯ぎしりも治まるのです。
 したがって、子供の歯ぎしりは一時的なもので、一般的には放置しておいても良いのです。しかし歯ぎしりがひどく心配なら、専門医に相談されれば、咬み合わせの治療によって治すこともできます。大人の歯ぎしりも、咬み合わせの狂いに原因していることが多いのです。その場合は、咬み合わせの治療によって治すことができます。

歯ぎしりの治療

 歯ぎしりの診断と治療について説明します。
 まず、診断は歯を全く削ることなく、歯の面に合成樹脂を貼り付けます。そして咬み合わせを調整します。咬み合わせが原因であれば、この処置を行っただけで、歯ぎしりはその日から治ります。もし、中枢性の原因で、歯ぎしりが収まらなくとも、合成樹脂は歯に接着しているだけなので、やがて自然にはがれて元の状態に戻ります。私の経験から言えば、歯ぎしりの多くは咬み合わせ治療で治ると考えています。

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